2020年税制大綱の影響と今後の対策 ~海外不動産と減価償却費による節税~
投資家の皆様には値上がり目的の東南アジアだけでなく、節税目的でアメリカやイギリスなどの築古の木造アパートなどを購入されている方もいらっしゃるのではないかと思います。
まずは2020年税制大綱により課税所得がどのように変化するのか影響を確認したうえで、今後の対策も含め考えてみたいと思います。
このページの目次
海外不動産による節税封じ! ~2020年税制大綱の内容~
まず、海外不動産に関する減価償却費に関連する内容を確認します。以下は、2021年分の所得税、つまり2022年3月期限の確定申告から適用されます。(2020年の確定申告は本改正の影響は受けません。)
- 国外不動産所得の損失がある場合、損失のうち償却費に相当する金額はなかったものとみなす。
- 国外中古建物の貸付による損失は、ほかの国外不動産から生じる所得と通算できる。
- 不動産所得に関しての取り扱いであり、事業所得に対しては適用がない。
- 譲渡所得の計算上、なかったものとみなされた減価償却費は取得費から控除しない。
ちょっとなんのことかわかりません・・・という方の方が多いと思います。
課税所得への影響を以下で確認していきたいと思います。
課税所得を改正前・改正後で比較検証
以下の例を使いご説明していきたいと思います。
例)
給与所得:2000万円
海外不動産所得*減価償却費計上前:100万円
海外不動産にかかる減価償却費:600万円
税制改正による課税所得への影響【保有期間中】
【節税最後の年】2020年度の確定申告
以下のように本来は海外不動産より100万円の所得があるにもかかわらず、給与所得から500万円へった課税所得となりました。
課税所得1500万円=給与所得2000万円+不動産所得100万円‐減価償却費600万円
課税所得=給与所得‐500万円
この500万円の課税所得減が、節税効果としてつかわれていたものでした。
【改正適用以降】2021年の確定申告
改正後は以下のようになってしまいます。
課税所得2000万円=給与所得2000万円+不動産所得100万円‐減価償却費100万円
(*減価償却費のうち500万円は損金と認められない!)
海外の不動産所得からの損金はなかったことになってしまうため、給与所得=課税所得となり、節税効果がなくなってしまいました。
税制改正による課税所得への影響【売却時】
次は以下の2つの例を比較して譲渡所得がどう変わるかをみてみましょう。
例)
購入金額(建物):2400万円
減価償却年数:4年
売却金額(建物):3000万円
【減価償却費は今まで通り、所得税の節税効果あり】
2020年1月に購入した物件を2020年12月に売却した場合
譲渡所得1200万円=売却金額3000万円‐(購入金額2400万円‐減価償却済600万円)
所得税で利用した損金分の減価償却費600万円は、建物の取得価格から差し引かれてしまうため、購入原価は1800万円となってしまい、結果1200万円の譲渡所得が発生します。
【減価償却費での損金計上認められず、節税効果なし】
2021年1月に購入した物件を2021年12月に売却した場合
譲渡所得700万円=売却金額3000万円‐(購入金額2400万円‐減価償却済100万円)
*所得税申告で利用した減価償却費は100万円だけとなるため、購入代金から差し引く減価償却費も100万円だけです。
結果、譲渡所得は700万円だけとなりました。
保有期間の所得と譲渡所得の合算で見てみよう
税制改正前の合算
それぞれ1つ目の例を合算してみます。
保有期間課税所得1500万円+譲渡所得1200万円=合計2700万円
税制改正後の合算
こちらはそれぞれ2つ目の例を合算したものです。
保有期間課税所得2000万円+譲渡所得700万円=合計2700万円
改正前・改正後の比較まとめ
ご覧頂きましたとおり、税制が変わっても課税所得の合計は2700万円でかわりません。
(わかりやすく1年だけの例としましたが、複数年の保有をする前提でもかわりません。)
ただ、高額所得者の方の所得税税率(約50%)と、長期譲渡所得の税率(約20%)と税率の差がありますので、税率が高い保有期間の課税所得を下げ、相対的に譲渡所得をあげ、譲渡所得に低い税率を適用させた方が、トータルの納税額は減ることとなっていました。
今回の税制大綱により、1つ目の例を使うことはできなくなり、2つ目の計算方法をとらなくてはいけなくなったため、“海外不動産による節税封じ”と呼ばれています。
税制改正前の税額合算
1500万円×50%+1200万円×20%=990万円
税制改正後の税額合算
2000万円×50%+700万円×20%=1350万円
こちらの例でみてみると、360万円の納税額増となりました。
*こちらはできる限りわかりやすくご説明を試みた結果であり、正確な数字・比較を表すものではありません。1年間の保有という前提でも、長期譲渡所得税率を使い計算しております。
2020年税制大綱をふまえた海外不動産戦略【4つの対策を検討】
正直、税務署も逃げ道をふさいできますので、これだ!という方法はないのですが、4つ戦略を考えてみました。1つずつ順番に見ていきましょう。
売却
もともと想定しいた節税効果がなくなってしまったのであれば、売却。というのが1つ目の選択肢となります。このような改正により値段が下がるかもしれない、早く売った方が良いのではないかと思われる方もいらっしゃるかもしれません。
保有されている不動産にもよりますし、一概にはいえないのですが、この税制大綱を理由に売り急ぐ必要はないと思います。
というのも、もともとアメリカやイギリスの物件のメインの購入者は日本人ではなく、現地のアメリカ人やイギリス人。税制大綱の影響で売りを考えるのは、アメリカやイギリスの市場の中でみたら“わずかな”日本人購入者だけです。
この改正によりマーケットが大きく動くということはないでしょうから、これを理由に売却を急ぐ必要はないと思います。
特に購入されてまだ5年たっていないケースで、短期譲渡所得の税率が適用されてしまうケースでは時期を良く判断した方がよいでしょう。
資産管理会社など法人への譲渡
損金が認められないという変更は、“個人”の所得税に関する変更となります。そのため、法人が所有している海外の不動産であれば、減価償却費を勘案すると赤字となる場合でも、本業の事業からの所得と合算することは可能です。
個人で事業を経営している会社がある、資産管理会社をもっているという方は、ご自身の法人に売却するという選択肢もありえます。
こちらも私見にはなりますが、お勧めできる案ではないかもしれません。
法人税率は所得税と違い、所得税率約50%と長期譲渡所得税率約20%といった税率差がありません。結果、納税する時期が変わるだけで、課税所得も、課税額も保有期間すべてで合算すると同じ金額になります。
ただ、納税時期を売却時まで後ろ倒しにできるメリットはありますので、第三者への売却までの保有期間と、個人から資産管理会社へ名義を変更するために必要なコストとの相談になるかと思います。
不動産所得から事業所得 所得申告カテゴリーの変更
大綱は“不動産所得”からのとされているため、不動産から生まれる所得を“不動産所得”ではなく、“事業所得”に変更することができれば、今までどおりの減価償却費の計上、損金の合算ができる可能性があります。
事業所得として申告するためには、税務署の判断にもよりますので一概にはいえませんが、以下のようなことが必要になります。
・規模をふやす
1部屋ではなかなか事業として認めてもらうことは難しく、事業規模というために5‐10件程度まで保有する不動産を増やす
・相当なサービスを付加する
食事や清掃など付随的なサービスを提供する
(現状でもバケーションレンタルの収入を事業所得として申告されている方もいらっしゃるようです。)
ただ、こちらも私見ですが、お勧めできません。
相応の不動産の買い増しや、サービス提供のリスクをとり、結果、事業所得と認めてもらえなかったときのことを考えると、なかなかふみだしずらい選択肢です。
また、個人が行う民泊の範囲であれば雑所得とされている例もありますので、相当なサービスを付加するだけでは、雑所得に分類させられてしまうことも考えられます。
利回りの良い海外不動産への追加投資
もし、追加投資をすることができる資金をお持ちの方であれば、これが一番現実的かもしれません。
“海外”の利回りが高い不動産を購入する
その不動産の賃貸所得と合算し、利回りの高い不動産からの賃貸所得を相殺することで、実質、新しく買った不動産からの所得からは納税しないという方法です。
コロナウィルスの影響もあり、投げ売りされるような海外不動産を見つけたら、購入を検討するのも案かもしれません。ただし、都心部の物件や、賃料保証がついているものなど、賃料が安定的にはいってきそうな物件に限ってくださいね。追加購入したお部屋が空室では、相殺する収入がはいってきません。
自分自身、この記事をまとめていて、このような方法があったか!と思った方法でした。
以上、2020年税制大綱により封じられることになった、海外不動産を利用した節税に対しての解説となりました。
※ 本文内、わかりやすさを優先したことから、適切な試算になっていない部分があります。
※ 税務に関しては、必ず税理士にご確認頂ければと思います。
※ 今回、記載した内容は、2020年4月時点のもので、今後税制改革により変更される可能性があります。
不動産投資のコンサルティングを17年間、そのうち、7年間はタイ・マレーシア・フィリピンを中心に東南アジアを飛び回り、投資コンサルティング及び運用アドバイスに7年間携わって参りました。本サイトではその経験と、最新情報から皆様の東南アジア不動産投資に有用な情報を提供していきたいと考えております。