コンドミニアム供給過多対策 空室税導入をマレーシアで検討!?

マレーシアの住宅供給過剰への対策として、不動産開発業者に課税する空室税の導入が検討されているというニュースがありましたので、ご紹介させて頂きます。

 

 

空室税の導入はマレーシアの供給過剰の解消に繋がるのか?

不動産開発業者に対する増税案は、マレーシアで問題となっている住宅の供給過剰の解決策として挙げられている。
しかし、措置を講じる前に正確に状況を把握する必要がある。

最近、不動産業界では空室税の問題が話題になっている。
これは、政府がKlang Valleyの売れ残った高級マンションの数を解消するするために、世界中の他の主要都市でも行われているような税措置を行うかどうか、議会にてDatuk Hasanuddin Mohd Yunus (PH-Hulu Langat)によって発案されたものである。
この回答として、 Datuk Seri Edmund Santhara Kumar連邦副領土大臣は、売れ残った高級マンション(100万RM以上)の数は少ないため、今すぐ税措置を行うべきではないと述べたが、今後も検討が続くだろう。

1週間後、住宅・地方自治体省(KPTP)は空室税制度の策定がすすんでおり、早ければ来年にも買い手のつかない不動産に空室税が課される可能性があると発表した。
KPKTによると、このような空室税の導入によって、不動産業界は国の住宅(特に高層住宅街)の供給余剰を減らすための計画を立てると見込んでいる。
しかし、8月27日、 Zuraida Kamaruddin住宅・地方大臣はKPKTはまだ空室税の施行について検討中であり、まだ決断をしていないと述べた。
以前は、この空室税の提案は、「売れ残り物件数の価格がRM500,000以上である」との省が得たデータに基づいて作られたものであった。

この出来事の流れと、マスメディアで報じられた業界関係者の反応から判断すると、不動産開発業者に空室税を課す話は少なくなってきているようだ。
しかし、業界が現在の不況から回復すれば、再び持ち出される可能性があることを忘れてはならない。
では、空室税とは何か、どのように役立つのだろうか。

 

 

空室税とは何か?

理論上では、空室税とは総販売価格の内、一定期間空室または売れ残った物件に課される税金である。
これは、空き物件が市場で投機的に売却または貸出されることを防ぐために、カナダのバンクーバー、アメリカのオークランドとワシントンDC、オーストラリアのメルボルンなどの、外国人の住宅所有数が多い都市で行使されている。
一時財産と二次財産の両方に空室税を課すことで、住宅の価格問題は改善されることが予想されている。特に供給が追い付いていない市場で行われる予定である。

 

 

なぜ空室税はすぐに導入されないのか?

KPKTが提案した空室税は全ての住宅価格の下落を引き起こすだけでなく、その住宅保有者の生活を圧迫する「売れない住宅にかかる税金」となる可能性がある。
これは不動産開発業者が空室税から逃れるために、売れ残った住宅の価格を下げるためである。
その結果、販売価格の下落に繋がり、住宅市場にも影響を及ぼすこととなる。
最新のDOSMの統計によると、この国の持ち家比率は76.9%と高いため、住宅価値の下落は国の株価に大きな悪影響を及ぼすだろう。

長期的な視点でみると、空室税はこの国の住宅の購入価格問題と資産問題を悪化させると予想されている。
不動産業者は将来的に物件の開発を控える計画を立てるため、不動産の供給が減ることになる。
不動産の供給が減ると、需要が高まるため、不動産価格が高騰して住宅不足に陥ることに繋がることが予測される。
このような経済の需給問題は政府の力だけでは対処しきれないのである。
よって、特に経済学の観点から、この空室税の課税については十分な検討が必要なのである。

 

 

不動産の過剰供給問題の緩和に、空室税はどう役立つのか?

現在、住宅が供給過剰となっている状況は様々な要因によるものであり、不動産開発業者に課税しても解決することはない。
供給過剰の主な原因は満たされていない住宅需要の問題である。それは変わり続ける経済状況、人々の嗜好、景気、住宅の価格、クレジットの利便性、人口統計やライフスタイルの変化に影響を受けている。
これは全ての業界で協力しないと対応出来ないものである。
もし政府がこの過剰供給問題を解決するのなら、この状況に関する詳細な調査が必要である。

1Q2020 NAPICの過剰供給に関する統計によると、一軒家と高層マンションを含む売れ残った住宅の総数は29,698軒あると発表されている(図1)。

 

図1:Overhangs of residential- and commercial-titled residences in 1Q2020, by price range. © NAPIC

住宅の供給過剰は高級住宅の層だけでなく、広範囲な層でも同じ状況が見られている。
驚くべきことに、RM300k未満の住宅が最も売れ残りが多く、次いでRM500k-RM100万(8,623軒すなわち29%)、RM300k-RM500k(7,492軒すなわち25.2%)、そしてRM100万以上(3,876軒すなわち13.1%)の住宅という結果となる。

RM300k以下の売れ残り物件のほとんどは、格安の住宅建設事業(PR1MAとRUMAWIP)によって建てられた住宅で、人気のない場所への建設や見合わない価格設定に対しては批判の声が集まっている。
例えば、Perakは売れ残り物件の70%がRM300k以下で、その物件はPR1MAの高級住宅地(主にFalim、Meruraya、Kampung Paloh)の恩恵を受けている。
他の典型的な例では、売れ残り物件の48.7%がRM300k以下のKedah州では、Sungai PetaniにあるPR1MAのテラスハウスの恩恵を受けている(図2)。

 

図2: Overhang of residential housing in 1Q2020, by state. © NAPIC

 

物件の過剰供給問題には、どの改善策がより効果的なのか?

この売れ残った物件は、今後数年またはそれ以上の間売れ残ったままとなる可能性がある。
それは、地域の需要をはるかに上回る数の住宅が建設された結果であると言える。
もし空室税が階層に関わらず、全ての住宅に課されたとしたら、政府の格安住宅建設事業のもとで建てられた家は大きな影響を受けるだろう。
それゆえ、不要な混乱を避けて売れ残り物件の問題を解決するには、よりターゲットを絞る必要がある。

サービスアパートメントやSOHO等の商業的な意味合いを持つ物件は、過剰供給物件として数えられ、国の住宅過剰供給の問題を悪化させると考えられている。
居住と商業の意味合いを持つ過剰供給物件の総数は、48.619軒であるとの記録がある。そのうち、16,942軒すなわち34.8%がサービスアパートメントによって占められ、1,979軒すなわち4.1%がSOHOによって占められている(図1)。
特にJohor州、 Kuala Lumpur、Selangor州では、サービスアパートメントの占める割合が高く、それぞれ67.1%、45.2%、23.2%となっている(図3)。

 

図3: Overhangs of residential- and commercial-titled residences in Q12020, by state. © NAPIC

 

Johor州にあるサービスアパートメントに関する詳細な調査によると、主にRM500k-RM100万(50%)の物件が供給過多となっている。
これはKuala LumpurとSelangor州のデータに見られる、RM500k-RM100万のデータとは対照的である(図4)。

 

図4: Overhangs of serviced apartment in Johor, Kuala Lumpur, and Selangor, by price range. © NAPIC

 

それに加えて、Johor州と他の2つ州との決定的な違いは、主に不動産業者が外国人バイヤーを利用していることと、地方自治体との協力関係が希薄であることである。
繰り返すと、この供給過多の問題は特定できるものであり、地域的な問題である。それはターゲットを絞って、改善策を考えないと解決できないのである。
例えば、Johor州政府が州全体に空室税を課すのではなく、サービスアパートの開発を凍結させるといった取り組みである。

現時点で講ずべき措置は、不動産業界の人々の間で情報共有を円滑にすることである。
コロナウイルスの発生に伴い、不動産業界は軟化し、買い手市場が優勢となっている。
ポストMCO時代には、より価格重視で、将来的に生活の質が上がるような場所に注目が集まるだろう。
したがって、売り上げを伸ばすために市場に拍車をかけて購買意欲を高めるより、不動産開発の基本原則(住宅価格、規模、場所の動的取引関係)に立ち戻り、売り出すものの種類や、どのターゲットに狙いを定めるかを決めるべきなのである。

この記事は連邦、州、そして地方のデータを集約する総合住宅データベースの必要性を表している。
これは不動産業界が最新の市場動向を得るためだけでなく、地域ごとの住宅購入能力に併せた新規事業開発をする上で役立つだろう。
そうすることで、十分な住宅供給がすすみ、住居の多様化が進んだ国家を確立することができるのではないだろうか。

 

まとめ

こちらの記事は以下のニュースをもとに作成をしています。

https://www.iproperty.com.my/news/vacancy-tax-property-overhang-malaysia/

この記事にあるように、空室税の導入により、住宅供給過多が単純に解決できるとは思えません。また、空室税が導入されることにより、多くの売れ残り在庫が残る、ジョフォールバル、クアラルンプール、その周辺エリアであるセランゴールでは、不動産開発業者が空室税の課税を避けるため、販売を急ぎ、売れ残り在庫の値段を引き下げられることが予想されます。それによりマレーシア人、外国人投資家が保有する住宅価格の引き下げの要因につながります。よって、一時的には住宅価格が下がることになるでしょう。

一定期間を終えて、住宅供給量が落ち着いてくることにより、住宅価格は安定してくるとも考えられますが、そこまでには3-5年といった中長期の期間を要するのではないかと思われます。

売れ残り在庫を削減していくことは、健全な住宅市場形成には必要なことと考えられます。ただ、私見ではありますが、統一的な空室税の導入という単純な解決策ではなく、売れ残り物件が多いエリアの特色、理由に応じた対策が講じる方がより早期の問題解決につながるものと考えています。